右のボタンクリックで音声で読み上げます。
この内容は自己研鑽・事業所内研修を目的に厚生労働省が発表している資料をもとに作成しております。
最後まで作ってから気が付きましたが、目を通すだけでも長時間となります。グループワーク形式よりも、座学形式の方が使いやすい内容となりましたので、参考までに…
高齢者虐待の基本的な情報は整理できたでしょうか?次は対応について確認していきましょう。
高齢者虐待の防止、高齢者の擁護者に対する支援などに関する法律(平成17年11月9日法律第124号)の概要を参照いたします。
2 家庭における養護者による高齢者虐待への対応
市町村の通報など
高齢者虐待を発見したものは、高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合には、市町村に通報しなければならない。それ以外の場合は、市町村に通報するよう努めなければならない。虐待を受けた本人が市町村に届け出ることも可能。
これに対しての市町村の対応
①高齢者及び擁護者に対する相談、指導、助言を行う。
②通報があった場合の事実確認のための措置を講ずる。
③高齢者の保護のため、生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に施設へ入所させるなど、適切に老人福祉法による保護のための措置を講ずる。
④、③の措置を取るために必要な居室を確保するために必要な措置を講ずる。
⑤高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合は、立ち入り調査をすることができる。立ち入り調査を行うにあたって、所轄の警察署長に援助を求めることができる。
擁護者に対する支援
①市町村は、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。
②市町村は①の措置として、養護者の心身の状況に照らし、その養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。
連携協力体制の整備など
①市町村は、養護者による高齢者虐待の防止等の適切な実施のため、地域包括支援センターなどと連携協力体制を整備しなければならない。
②市町村は、相談、指導、助言、通報の受理、事実の確認のための措置、擁護者に対する支援の事務を地域包括支援センター等に委託することが出来る。
3 施設等の職員による高齢者虐待への対応
3の1、市町村への通報など
①施設などの職員は、業務に従事している施設等で虐待を受けた高齢者を発見した場合は、市町村に通報しなければならない。
②、①以外の場合は 高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、市町村に通報しなければならない。
上記以外の場合は、市町村に通報するよう努めなければならない。
虐待を受けた本人が市町村に届け出ることも可能
虐待・過失による通報は保護されない。
5 検討規定
高齢者以外の者であって精神上または身体上の理由により養護を必要とするものに対する虐待防止等のための制度については、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等のための制度については、この法律の施行後3年を目途として、この法律をの施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
となっております。法律の概要が見えたところで、次は市町村について確認していきましょう。
ここからは厚生労働省ホームページ【「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」の改訂について】の本編の2 養護者による虐待への対応(市町村における業務)を参照し深めていきます。
1の1 組織体制
市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、通報・届出の受理、養護者による虐待を受けた高齢者の保護、養護者に対する支援等に関する事務を行う体制を整備する必要があります。そのうえで、当該事務についての窓口となる部局(及び高齢者虐待対応者の名称)を明示すること等により、地域住民や関係機関等に周知しなければなりません(第 18 条)。
市町村は、上記の相談・通報体制を整備するとともに、高齢者虐待の未然防止、早期発見、迅速かつ適切な対応ができるよう関係各機関との連携協力体制を整備することが重要です。
1の1の1 相談・通報・届出受理体制の構築
高齢者虐待防止法では、高齢者虐待及び養護者支援に関する相談の実施、通報、届出の受理、相談者に対する助言・指導等を行う部署を明示し、窓口等を周知させなければならないと定めています(第 18 条)。この相談・対応窓口は、市町村の他に高齢者虐待対応協力者への委託も可能となっており、地域包括支援センター等でも実施することができます。
○時間外の対応
高齢者虐待に関する通報等は平日の日中のみに寄せられるとは限らないため、休日・夜間でも迅速かつ適切に対応できる体制(時間外窓口、職員連絡網、夜間対応マニュアル等)を整備します。高齢者への対応が適切に行える体制とする必要があり、様々な組織との連携の可否等も含めて体制整備を検討することが重要です。
1の1の2虐待対応体制の構築 3.ネットワークの構築 4.人材確保及び人材育成
は、時間の都合上割愛いたします。
1の2 事務の委託
高齢者虐待防止法では、高齢者や養護者への相談・指導・助言、養護者による高齢者虐待に係る通報・届出の受理、高齢者の安全確認などの事実確認、養護者の負担軽減のための相談・指導・助言その他必要な措置に係る業務の全部又は一部を地域包括支援センターなど高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められるものに事務委託することができることとされています(第 17 条)。
委託可能な事務の内容は以下の通りです。
介護保険法において、各市町村に設置される地域包括支援センターの業務として、①総合相談支援業務、②権利擁護業務(高齢者虐待への対応等)、③包括的・継続的ケアマネジメント業務、④介護予防ケアマネジメント業務が定められています。このうち、地域ネットワークの構築や実態把握、総合相談、権利擁護などの業務の中で高齢者虐待の防止や虐待を受けた高齢者、養護者等への支援が行われることとなります。
具体的な相談窓口として
①市町村の高齢・介護担当窓口
②地域包括支援センター が、機能していると考えるのが適切ですね。
音声案内の続きはこちら
2 高齢者虐待の未然防止・早期発見
最初にこちらの表、「虐待リスク要因の例」をご覧ください。

併せてこちらも確認お願いします。
(参考)平成 28 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果

2の1 高齢者虐待の未然防止の取組
高齢者虐待は、身体的、精神的、社会的、経済的要因が複雑に絡み合って起こります。リスク要因としては、以下の表のようなものが考えられますが、これらの要因は、高齢者や養護者・家族の生活状況や虐待のリスクを見極めるための重要な指標となります。
もちろん、多くのリスク要因を有する家庭で直ちに高齢者虐待が起こるわけではありませんが、「早期発見・見守りネットワーク」等を通じて高齢者や養護者の心身の状況や生活状況を適切に見極めながら、支援・見守りを行うことが重要です。
2の1の2 養護者に対する支援
2の1の3 高齢者虐待の啓発、は、時間都合上割愛致します。
2の1の4 認知症に関する知識や介護方法の周知・啓発
認知症高齢者は、養護者・家族等の言うことが理解できなかったり、行動・心理症状が現れたりすることがありますが、養護者・家族等がこれを理解できず、又は受け入れることができずに対応してしまうと、認知症の症状の悪化につながる場合もあります。また、家族に認知症に関する正しい知識がないために、必要な医療や介護を受けられていないこともあります。養護者の支援のためにも必要なサービスの利用につなげることが求められます。
そこで、認知症高齢者に対する正しい知識や介護方法などについて養護者・家族等や地域住民に理解がなされるような取組が必要となります。
例えば、認知症サポーター養成講座、認知症介護教室などの開催は、認知症の正しい知識や理解を促進すると考えられます。
また、認知症の介護経験を有する当事者による支援団体の情報や認知症カフェなどの情報を家族に提供することは、認知症介護に関する身近な相談窓口となることや、ピアカウンセリングや介護疲れの癒しの場となるなどの効果も期待できると考えられ、認知症の介護に直面した家族にとって、精神的な支えになることが期待できます。
2の2 高齢者虐待の早期発見のための取組
3段目以降に注目してください。このようにあります。
また、高齢者の福祉に業務上関係のある者は、早期発見に努めなければならないことが高齢者虐待防止法に規定されています。特に、高齢者が介護保険サービスを利用している場合には、担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)や介護保険サービス事業所の職員は高齢者や養護者・家族等と接する機会も多いことから、高齢者の身体面や行動面での変化、養護者・家族等の様子の変化などを専門的な知識を持って常に観察することが重要です。
高齢者や養護者・家族等に虐待が疑われるサインがみられる場合には、積極的に相談に乗って問題を理解するとともに、担当者は一人で問題を抱え込まずに相談等窓口につなぐようにします。また、できる限り高齢者本人や養護者・家族等が自ら相談等窓口に連絡するように働きかけることも重要です。虐待は、当事者が問題に気づくことが重要であり、これによってその後の援助の内容も大きく変わってきます。介護支援専門員(ケアマネジャー)や介護保険サービス事業所の職員には、このような高齢者や養護者・家族等を支援する役割も期待されます。
介護保険サービスの関係者は虐待の早期発見に対して、重要な役割があるということを認識しておきましょう。
次は通報について、です。
2の2の1 通報(努力)義務の周知
2の2の2 高齢者虐待・養護者支援に関する対応窓口の周知徹底
についても市町村の責務となります。もちろん内容を押さえておくことは必要ですが、介護保険サービスの関係者として、市町村主導のもと、サポート的な動きができれば十分かと考えます。
また、高齢者虐待の要因には様々なものがあるため、他の窓口等に相談が入る可能性もあります。他の窓口に相談や通報・届出が入った場合にも、速やかに担当窓口に連絡が入るように、行政内及び関係機関の相談等窓口間で連携体制を整備しておくことも必要です。
高齢者が不当な扱いや虐待を受けていることが疑われる場合のサインの例を確認しておきましょう。

上記内容を念頭に、むつ市発行のパンフレットを見てみましょう。


すごく考えてつくられたパンフレットに見えませんか?
音声案内の続きはこちら
3 養護者による高齢者虐待対応
高齢者虐待においては、目的を明確にするとともに、進行状況を見通しながら対応を実施することが重要であるため、大きく3つの段階に分けて説明します。
○初動期段階
初動期段階では、高齢者の生命・身体の安全確保が目的となります。
高齢者虐待を疑わせる相談・通報・届け出を受け付けた後、コアメンバー会議で虐待の有無と緊急性の判断を行い、その判断に基づいて作成され対応方針に沿って行われた一連の対応の評価を行うまでの流れをさします。
○対応段階
対応段階では、高齢者の生命・身体の安全確保を常に意識しながら、虐待の解消と高齢者が安心して生活を送る環境を整えるために必要な対応を行うことが目的となります。
対応段階とは、虐待と認定した事例に対して、「情報収集と虐待発生要因・課題の整理→虐待対応計画(案)の作成→虐待対応ケース会議(虐待対応計画案の協議・決定)→計画の実施→対応段階の評価会議→(評価の内容に応じて)必要な情報収集と整理→虐待対応計画の見直し~終結」という循環を繰り返す流れをさします。
○終結段階
虐待対応の終結にあたっては、「虐待が解消されたと確認できること」が最低要件となります。
同時に、虐待の解消が、高齢者が安心して生活を送ることにつながるのかを見極める必要があります。
虐待がない状態で、高齢者が安心して地域で暮らすために、権利擁護対応(虐待対応を除く)や包括的・継続的ケアマネジメント支援に移行する必要があります。
とあります。
第一回研修資料の中にあったように、わたしたち介護保険サービス関係者は、一般の人と比べ虐待の第一発見・通報者になることが多く、その後会議などでもコアメンバーとなる可能性もあります。コアメンバー会議から事情を聴取される可能性があります。
ここから先、通報後は市町村・地域包括支援センターが主導となりますが、市町村・地域包括支援センターの動きを把握しておくことで、情報提供タイミングや種類・精度の適正が上がります。適切な情報が解決への近道であることを意識しておきましょう。
4 初動期段階

相談・通報等受理後の対応としてまずは情報整理となります。上記相談・通報・届出受付票(総合相談)と共に、地域包括支援センターで使用されている通常時の相談受付表(利用者基本情報)が使用されます。
介護保険サービス事業所の皆様であれば、いつもの基本情報に上記受付表が追加されたという感覚で間違いないでしょう。
情報の共有に伴い、関係する法令として「個人情報保護法」を押さえておく必要があると思います。
コアメンバー会議の参加者となる可能性が高く、コアメンバー会議から事情を聴取される可能性が高く、共有する情報にはデリケートなものが含まれます。個人情報を取り扱う場合には、主導となる市町村や地域包括支援センターに、その範囲を確認しておきましょう。
4の2 事実確認
4の2の1 事実の確認の必要性
初動期の事実確認においては、高齢者の生命や身体の安全や虐待の有無を判断する事実を確認するために必要な情報を収集することが不可欠です。事実確認を効果的に行うため、市町村担当部署と地域包括支援センターはあらかじめ、必要な情報収集項目や、事実確認の方法と役割分担及び期限について、確認を行います。
4の2の2 事実の確認の実施方法
事実の確認は、以下の方法で行います。
○高齢者や養護者への訪問調査
①虐待の種類や程度
②虐待の事実と経過
③高齢者の安全確認と身体・精神・生活状況等の把握
・安全確認・・・関係機関や関係者の協力を得ながら、面会その他の方法で確認する。特に、緊急保護の要否を判断する上で高齢者の心身の状況を直接観察することが有効であるため、基本的には面接によって確認を行う。
・身体状況・・・傷害部位及びその状況を具体的に記録する。慢性疾患等の有無や通院医療機関、介護サービス等の利用等、関係機関との連携も図る。
・精神状態・・・虐待による精神的な影響が表情や行動に表れている可能性があるため、高齢者の様子を記録する。
・生活環境・・・高齢者が生活している居室等の生活環境を記録する。
④養護者や同居人に関する情報の把握
・年齢、職業、性格、行動パターン、生活歴、転居歴、虐待との関わりなど
○庁内関係部署及び関係機関[市町村内の他部局、介護支援専門員(ケアマネジャー)や介護保険サービス事業所、民生委員など]からの情報収集
①高齢者と養護者等の関係の把握
・法的関係・・・戸籍謄本による法的関係、住民票による居所、同居家族の把握
・人間関係・・・高齢者と養護者・家族等の人間関係を全体的に把握(関わり方等)
②民生委員、保健センター、介護サービス事業者、医療機関等の関連部署機関からの情報収集
・これまでの生活状況、関係機関や諸制度の利用状況、通所・通院先での状況、等
※なお、高齢者が重傷を負った場合や高齢者又はその親族が、虐待行為を行っていた養護者等を刑事事件として取扱うことを望んでいる場合などには、所管の警察との情報交換が必要となる場合も考えられます。
事実確認中に予測されるリスクと対応方法についても事前に協議しておくことが必要です。
4の2の3 事実確認に入るまでの期間
高齢者虐待に関する通報等を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他の事実確認のための措置を講ずる必要があります(第9条)。
事例によっては直ちに安全の確認や緊急措置入所が必要な場合もあると考えられますので、事例にあった対応を図ることが必要です。
また、このような対応は休日・夜間に関わりなく、できる限り速やかに行うことを原則とします。
4の2の4 関係機関からの情報収集
収集する情報の種類等の例は以下のようになっております。

他機関から情報を収集する際には、以下の諸点について留意が必要です。
・秘密の保持、詳細な情報を入手すること等の理由により、訪問面接を原則とします。(緊急時を除く)
・他機関に訪問して情報を収集する際には、調査項目の漏れを防ぎ、客観性を高め共通認識を持つために、複数職員による同行を原則とします。
・高齢者虐待に関する個人情報については、個人情報保護法の第三者提供の制限(同法第 23条)の例外規定に該当すると解釈できる旨を説明します。
・ただし、相手側機関にも守秘義務規定がありますので、それを保障することが必要です。
また、個人情報の保護に関する法律の例外規定も押さえておきましょう。

市町村が虐待認定や緊急性判断を行ううえで、医療・福祉関係者や地域住民からの情報提供が不可欠です。
個人情報保護法においては、個人情報の第三者への提供を本人の同意なしに行うことを制限する例外として、「本人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」を挙げています。
高齢者虐待に係る事実確認等は、高齢者虐待防止法第9条第1項に基づくものであり、上記の個人情報保護法の例外規定の第1号「法令に基づく場合」に該当すると考えられます。
事実確認の目的は高齢者の生命・身体・財産に対する危険から救済することにあるから、上記規定第2号「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難である場合」に該当すると考えられます。
市町村又はその委託を受けた地域包括支援センターが高齢者虐待防止法の定める事務を遂行することに対して協力する必要があることから、上記規定第4号に該当すると考えられます。
以上の理由から、市町村が高齢者虐待防止法に基づき実施する事実確認調査に協力し、高齢者等の情報提供を行うことは個人情報保護法の例外規定に当たると考えられます。
音声案内の続きはこちら
4の2の5 訪問調査
虐待の事実を確認するためには、訪問して高齢者の安全確認や心身の状況、養護者や家族等の状況を把握することが重要です。ただし、訪問による面接調査は、養護者・家族等や高齢者本人にとっては抵抗感が大きいため、調査を拒否するケースも少なからずあると考えられます。
一旦拒否された場合には、その後の支援を受け入れなくなるおそれもあります。また、事前に得られた情報から調査員の訪問が受け入れられにくい(信頼関係が築きにくい)ことが予想されるような場合もあります。
このようなときは、高齢者や養護者・家族等と関わりのある機関や親族、知人、近隣住民などの協力を得ながら安否の確認を行う必要があります。
4の2の6 介入拒否がある場合の対応

調査や支援に対して拒否的な態度をとる養護者等へのアプローチは、虐待に関する初期援助の中で最も難しい課題の1つであり、高齢者の安全確認ができない場合は、立入調査の実施も視野に入れながら、様々な関係者との連携協力のもとで対処する必要があります。
養護者等にとって抵抗感の少ない方法を優先的に検討し、それらの方法では困難な場合に立入調査を検討する流れとなりますが、緊急な介入が必要となる高齢者の生命や身体に関する危険性が認められる場合には、養護者等の拒否的な態度に関わらず立入調査を含めて積極的な介入が必要です。
ア.関わりのある機関からのアプローチ・イ.医療機関への一時入院・ウ. 親族、知人、地域関係者等からのアプローチ・も手段の一つとなります。エ. さまざまな工夫を重ねても、安全を確認することができない場合、
適切な時期に立入調査の要否を検討することが必要となります。立入調査の要否を判断する根拠として、これまで訪問した日時とその結果の記録が重要となります。
4の3 虐待の有無の判断、緊急性の判断、対応方針の決定
訪問調査等による事実確認によって高齢者本人や養護者の状況を確認した後、高齢者虐待対応協力者と対応について協議することが規定されています(第9条)。
具体的には、コアメンバー会議において事例に対する協議を行い、援助方針や支援者の役割について決定します。なお、援助方針を検討する際には、虐待の状況に応じて多面的に状況分析を行い、多方面からの支援がなされるよう検討することが必要です。
このあたりの内容になってくると、介護保険サービス関係者から市町村・地域包括支援センターにバトンタッチとなったあと、もしくは、バトンタッチの途中であることが考えられます。地域包括支援センターの職員の皆様は内容の把握は必要ですが、介護保険サービス事業者の皆さまは概要の把握のみでよいかと思われます。
4の3の1 コアメンバー会議の開催
コアメンバー会議とは…
高齢者虐待防止を担当する区市町村管理職及び担当職員と地域包括支援センター職員によって構成され、虐待の有無や緊急性の判断、対応方針を市町村の責任において決定する会議。
4の3の2 虐待の有無の判断
コアメンバー会議において、事実確認・収集された情報から虐待の有無を判断します。
虐待の事実はない(虐待が疑われる事実等が確認されなかった)、収集した情報が十分ではなく判断できなかった、虐待の事実が確認された(虐待が疑われる事実が確認された)のいずれかに整理し、虐待の事実が確認された場合、具体的にどの虐待類型に属するのかを確認します。
4の3の4 対応方針の決定
市町村担当部署は、虐待の有無と緊急性の判断を行った結果、虐待と認定した事例、事実確認を継続と判断した事例について、必要な対応方針を決定します。
いずれにおいても、初動期の対応方針を決定する上では、「高齢者の生命や身体の安全確保」という目的を明確にした上で、事例の状況に応じて検討することが重要です。
〇虐待の有無の判断により虐待なしと判断された場合は、権利擁護対応や包括的・継続的ケアマネジメント支援に移行します。
〇高齢者の生命や身体に重大な危険が生じるおそれがあると判断した場合は、早急に介入する必要があることから、可能な手段から適切なものを選択して介入します。
〇措置が必要と判断した場合は、高齢者への訪問、措置の段取り、関係機関からの情報収集、他機関との調整など役割を分担し、即時対応します。
〇いずれにしても高齢者の安全の確認、保護を優先します。
音声案内の続きはこちら
4の4 行政権限の行使等
4の4の1 立入調査
高齢者の生命又は身体に関わる事態が生じているおそれがあるにもかかわらず、調査や介入が困難な場合には、行政権限として認められている立入調査の実施について緊急的な対応措置として検討する必要があります。
ア. 立入調査の法的根拠
高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められるときは、市町村長は、担当部局の職員や、直営の地域包括支援センターの職員に、虐待を受けている高齢者の居所に立ち入り、必要な調査や質問をさせることができるとされています(第 11 条)。立入調査は第 17 条に規定する委託事項には含まれませんので、立入調査が可能なのは、市町村又は市町村直営の地域包括支援センターに限られます。
市町村長は、立入調査の際に必要に応じて適切に、高齢者の居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めなければならないとされています(第 12 条)。
また、正当な理由がなく立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは高齢者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、30 万円以下の罰金に処せられることとなっています(第 30 条)。
立ち入り調査の段階となると、介護保険サービス事業所の皆様ができることはほぼありません。調査自体よりも、調査後どうなるかに焦点をあて研修を続けていきますね。
4の4の2 高齢者の保護
ア. 養護者との分離
高齢者の生命や身体に関わる危険性が高く、放置しておくと重大な結果を招くおそれが予測される場合や、他の方法では虐待の軽減が期待できない場合などには、高齢者を保護するため、養護者等から分離する手段を検討する必要があります。
また、これによって、高齢者の安全を危惧することなく養護者に対する調査や指導・助言を行うことができたり、一時的に介護負担等から解放されることで養護者も落ち着くことができるなど、援助を開始する動機づけにつながる場合もあります。
(保護・分離の手段)
虐待を受けた高齢者を保護・分離する手段としては、契約による介護保険サービスの利用
(短期入所、施設入所等)、やむを得ない事由等による措置(特養、養護、短期入所等)、
医療機関への一時入院、市町村独自事業による一時保護などの方法が考えられます。
高齢者の心身の状況や地域の社会資源の実情に応じて、保護・分離する手段を検討することが必要となります。

イ. やむを得ない事由による措置
① やむを得ない事由による措置を行う場合
サービス利用契約を結ぶ能力に欠ける認知症高齢者である場合や、要介護認定を待つ時間的猶予がない場合などについて、高齢者を虐待から保護し権利擁護を図るためには、適切に「やむを得ない事由による措置」の適用を行う必要があります。
高齢者虐待防止法では、通報等の内容や事実確認によって高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められるなど、高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護を図るうえで必要がある場合は、適切に老人福祉法第 10条の4(居宅サービスの措置)、第 11 条第1項(養護老人ホームへの措置、特別養護老人ホームへのやむを得ない事由による措置、養護委託)の措置を講じることが規定されています。
「やむを得ない事由による措置」とは、「やむを得ない事由」によって契約による介護保険サービスを利用することが著しく困難な 65 歳以上の高齢者に対して、市町村長が職権により介護保険サービスを利用させることができるというものです。利用できるサービスは以下のとおりです。


5 対応段階
5の1 情報収集と虐待発生要因・課題の整理
初動期段階の評価会議の結果、虐待状況や要因、高齢者本人や養護者等の状況をアセスメントした結果をもとに、虐待対応計画を作成し、具体的な虐待要因(リスク)の解消に必要な支援を行います。
1)対応段階における情報収集と整理
2)虐待発生要因の明確化
3)高齢者が安心して生活を送るための環境整備に向けた課題やニーズの明確化
虐待発生要因を特定し、虐待が解消できたら、高齢者の安心した生活に向けて他に必要な対応課題やニーズはないかどうかを見極める必要があります。その際、高齢者本人の意思や希望、養護者・家族の意向について丁寧に把握することが重要になります。そして、高齢者と養護者・家族の関係性、近隣・地域住民や地域の社会資源等の情報についても、再度、高齢者が安心して生活を送るための環境整備に向けた可能性や課題といった視点から整理・分析することが重要です。そのうえで、どのような形態での虐待対応の終結が可能かについて虐待対応ケース会議で検討し、終結までの計画的支援を行います。
ア.継続した見守りと予防的な支援
イ.介護保険サービスの活用(ケアプランの見直し)
ウ.介護技術等の情報提供
エ.専門的な支援
養護者や家族に障害等があり、養護者自身が支援を必要としているにもかかわらず十分な支援や治療を受けられていなかったり、経済的な問題を抱えていて債務整理が必要な場合などは、それぞれに適切な対応を図るため、専門機関からの支援を導入します。
特に、高齢者あるいは養護者に認知症やうつ傾向、閉じこもりなどの症状がみられる場合には、専門医療機関への受診へつなげて医療的課題を明らかにすることが重要です。医療的な課題や疾患特性を考慮しない支援は状況を悪化させる場合もありますので、高齢者の状態を正確に把握した上で適切な支援を検討することが重要です。
音声案内の続きはこちら
6 終結段階
虐待対応の終結は、評価会議において判断します。
虐待発生要因へのアプローチにより、虐待が解消されたこと及び高齢者が安心して生活を送るために必要な環境が整ったことを確認し、終結の判断とします。
ただしこれは虐待対応としての終結の目安であり、高齢者が住み慣れた地域で安心して尊厳ある生活を送る権利を保障するために、必要に応じて、権利擁護対応や包括的・継続的ケアマネジメント支援に移行する必要があります。その場合、地域包括支援センターの関与の検討、関係機関との連絡体制の構築を意識して、適切な関与、引き継ぎを行います。
虐待の対応が終結となったあと、施設から居宅へ介護の場を移す、戻るケースもある事でしょう。再発防止のため、本人だけでなく取り巻く環境や関係者へのアプローチにも気を配りながら支援再開となります。
7 養護者(家族等)への支援
7の1 養護者(家族等)支援の意義
高齢者虐待防止法では、養護者の負担軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講じることが規定されています(第 14 条)。
高齢者虐待事例への対応は、虐待を行っている養護者も何らかの支援が必要な状態にあると考えて対応することが必要です。
高齢者が重度の要介護状態にあったり、養護者に認知症に対する介護の知識がないために介護疲れによって虐待が起きる場合や、家族間の人間関係の強弱、養護者自身が支援を要する障害の状態や経済状況にあるなど、高齢者虐待は様々な要因が絡み合って生じていると考えられます。そのため、これらの要因をひとつひとつ分析し、養護者に対して適切な支援を行うことで、高齢者に対する虐待も予防することができると考えられます。
虐待を行っている養護者を含む家族全体を支援する観点が重要です。
養護者に対する支援を行う際には、以下の視点が必要です。
1)養護者との間に信頼関係を確立する
2)介護負担・介護ストレスの軽減を図る、ねぎらう
3)養護者自身の抱える課題への対応
4)家族関係の回復・生活の安定
8 財産上の不当取引による被害の防止
8の1 被害相談、消費生活関係部署・機関の紹介
高齢者の財産を狙った不当な住宅改修や物品販売などの例が少なくありません。こうした被害に対して相談に応じ、高齢者の財産を保護するために適切な対応を図ることが必要とされています。
高齢者虐待防止法では、市町村は、養護者や高齢者の親族、養介護施設従事者等以外の第三者によって引き起こされた財産上の不当取引による被害について、相談に応じ、若しくは消費生活業務の担当部署や関連機関を紹介することが規定されています(第 27 条)。この相談や関連部署・機関の紹介は、高齢者虐待対応協力者に委託することが可能です。
特に、高齢者虐待対応協力者の一員である地域包括支援センターにおいては、消費生活センター又は市町村の消費者関係部局と定期的な情報交換を行うとともに、民生委員、介護支援専門員(ケアマネジャー)、訪問介護員等に対して不当取引に関する情報提供を行います。
住民に対しては、財産上の不当取引による高齢者の被害に関する相談窓口(基本的には、消費生活センター又は市町村の消費者担当部局が基本)を周知するとともに、消費生活に関連する部署・機関との連携協力体制の構築を図ります。

8の2 成年後見制度の活用
財産上の不当取引のように、経済的虐待と同様の行為が認められる場合には、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度の活用も含めた対応が必要となります。前述した市町村申立も活用しながら、高齢者の財産が守られるよう、支援を行うことが必要です。
コメント